夏の空を仰ぐ花
『翠は良いことと悪いことの区別くらいつけれる子だ。今は分からなくても、ちゃんと分かる日が来るさ』


焦ることはない、そう言った父の瞳は夕陽のように暖かい色をしていた。


『翠がバカじゃないことは、この父が一番分かってる』


秋の始まりの風が冷たさを含んでいることに、あたしはその時にようやく気付いた。


秋の空が透き通った青色をしていることにも。


『帰ろう。翠。家に帰ろう』


「父! 母!……ごめん」


あふれて、あふれて、止まらなかった。


「ごめんね! ほんとにっ……ごめんなさい!」


あたしは道の真ん中で人目もはばからずに、大声を上げて泣いた。


毒々しい感情が全部全部、涙と一緒に体外へ流れていった。


あたしの右手を、父の大きな左手が包み込む。


『ピアスか。翠は何でも似合うなあ。うちの子が一番かわいいなあ』


あたしの左手を、母の華奢な右手が包み込む。


「当たり前じゃんな。翠は、あたしが腹を痛めて産んだ子じゃ」


3人で手を繋いで、コスモス畑が続く道を歩いて帰った。


優しい、優しい、道のりだった。


『翠。何も迷うことはないぞ』


父は言った。



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