夏の空を仰ぐ花
なんだかとても深い溝ができて、どんどん広がっていくような気がして、怖くなった。


ファンヒーターの音だけが、響いていた。


あたしはしゃくりあげながら、補欠の背中を見つめ続けた。


「補欠……」


ごめんね、補欠。


「……」


「返事しろよ」


「……なに」


なんで、こっち見てくれないのさ。


「補欠う」


「だから、なに?」


なんでそんなに、冷たいのさ。


あたし、びっくりだよ。


あたし……なんでこんなに補欠のこと大好きなんだろう。


アルバムを握り締めて泣いていると、


「ほんと、わがままな女」


ぽつりと呟いて、補欠が小さく笑った。


でも、背中を向けたまま。


あたしは補欠の服を掴んで引っ張った。


ポツポツ、アルバムに落ちてはじける涙。


「意外」


背を向けたまま、補欠が優しい口調で続ける。


「翠が、こんなに嫉妬深いと思わなかった」


なんで、こっち見てくれないのさ、補欠。


お願い。


見て。


こっち見て。


あたしだけ……見て。


「ほけ……」


その瞬間、


「でも、やっぱ好きだけど」


そう言って、補欠が振り向いて、あたしからそっとアルバムを取り上げた。


「で、どうする? これから先」


補欠がアルバムを床に置いた。


「……へ?」


「もう、手繋がないのか?」



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