夏の空を仰ぐ花
「補欠の夢って、なに?」


聞くだけヤボか。


やっぱり甲子園出場だろうな。


聞くだけ無駄か。


すると、補欠はあたしを離して、見つめながら言った。


「甲子園」


「あ、やっぱな。あたしの夢はねえ」


と言いかけた時、補欠が遮った。


「もういっこあるけど」


そう言って、補欠はまたあたしの両手をそっと掴んだ。


「知りたい?」


ドキドキした。


「うん。教えろ」


その真っ直ぐな目に、あたしは一瞬で吸い込まれてしまった。


「とりあえず。ただ、隣に翠がいてくれたらなって。ずっと一緒に居れたらって」


「……え」


体中を、一気に高熱が巡る。


補欠の顔が近づいてくる。


「あの、補欠」


甲子園は絶対行くけど、と前置きして、補欠は小さく小さく囁いた。


「いつも隣には翠がいて。笑っていて」


唇に、補欠の気配が近づいてくる。


ドキドキしすぎて、心臓は爆発寸前で。


「いつか、翠にそっくりの子供が産まれて」


あたしたちの?


「……補欠??」


「いいな、そういうの。それが夢かな、おれの」


補欠があたしの両手をきゅっと握った。


「やっぱ、撤回」


「へっ……」


「翠が居れば、なんも要らねえや。おれ」


補欠の唇が、あたしの唇をふさぐ。


あたしはそっと、目を閉じた。


息なんかできない。


< 293 / 653 >

この作品をシェア

pagetop