夏の空を仰ぐ花
ひとりの女子生徒が来たと思ったら、すぐあとをひとりの男子生徒が追い掛けて来て。


ふたりの顔を見た瞬間、あたしはゴミ箱を抱きしめたまま、焼却炉の陰にとっさに身を隠した。


なにせ、女子生徒はあのお涼で。


男子生徒は、補欠の先輩だったのだから。


補欠よりも頭ひとつ分高い背に、坊主頭。


キリリとした顔立ち。


たしか、本間先輩って補欠が教えてくれた。


焼却炉の陰に隠れてあたしが寒さに耐えている事も知らず、ふたりはやけに緊迫した空気を漂わせ、見つめ合っている。


というより、睨み合っていると例えた方が正しいのかもしれない。


それにしても、制服一枚でこの氷点下は厳しい。


あたしは体を震わせながら、ゴミ箱を抱き締めた。


ちくしょう。


何が悲しくてこの寒空の下、ゴミ箱を抱き締めなきゃならんのだ。


「涼子さん!」


それでも、どうも気になってついつい覗き見してしまう。


悲しい、人間のサガだ。


本間先輩はちょくちょく見掛けているし、補欠の彼女と知ってからは行き合うと微笑んでくれる。


でも、涼子さんを校内で見掛けたのは久しぶりのことだった。


1月中はよく廊下で鉢合わせになっていた。


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