夏の空を仰ぐ花
それで、いつもあたしがあっかんべーをして、すると、彼女は困った顔をして清楚に笑った。


だけど、2月に入ると3年生は大学受験だの就活だのと慌ただしくなり、自由登校になった。


だから、涼子さんを見たのは、2、3週間ぶりだった。


久しぶりに見た涼子さんはもともと細いくせに、またひとまわり痩せて小さくなって見えた。


肩まで掛かっていたセミロングの髪の毛はバッサリ切り落とされ、ショートボブになっていた。


それでも美しさは相変わらずで、以前より数倍可憐さを増していた。


緊迫した空気を破ったのは、しゃんと背筋を伸ばした本間先輩の一言だった。


「まだ好きですか? そんなに好きですか? 夏井のことが」


え!


夏井、と聞いた瞬間に心臓が飛び跳ねた。


あたしは無意識のうちにゴミ箱を強く抱き締めていた。


「……え?」


涼子さんの表情が凍りつく。


本間先輩がぐっと何かを飲み込んだように見えた。


「知らないわけじゃないんでしょ? 夏井には彼女が」


本間先輩の言葉を最後まで聞かずに、涼子さんは少し大きな声を出した。


「翠ちゃんでしょ! 知ってるよ。私、振られたんだもの」


無風の一日だった。


だけど、そのぶん粉雪が絶え間なく降り続いた。


涼子さんの艶やかな髪の毛に、薄く粉雪が積もっていた。


「別に……引きずってるわけじゃないよ。もう諦めたもの」


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