夏の空を仰ぐ花
やさしい光
やさしい光だった。
彼を見たのは、あの日が初めてだった。
ひらひら、はらはら。
早咲きの桜の花びらが、季節外れのなごり雪に混じって、舞い落ちる。
「ねー、翠! やっぱやめとくべ。開いてないじゃん」
だいたい春休みじゃんか、と結衣がアスファルトにしゃがみ込んだ。
「情けない15歳だな、おぬし。あたしは諦めんぞ!」
季節は春、真っ只中。
あたしは中学校からの親友である佐東結衣(さとう ゆい)を無理やり連れ出して、明日から通う高校の偵察を決行した。
「見ろ、結衣! あれが」
目の前にドーンと建っている、白い校舎を指差した。
「明日から、ここがうちらのアジトだ。偵察もせんでどうする!」
ガッチリと閉ざされた正門の鉄格子前に立ち、あたしは胸の前で腕を組んだ。
「アジトって……んな大袈裟な」
疲れ切ったへなちょこ声で、結衣が言った。
「偵察なんかせんでも、明日からは嫌でも通わなきゃなんないんだしさ」
県立南高等学校。
自宅からほど近く、制服も可愛いという理由で、南高を受験した。
……なんて、真っ赤っかーな大嘘だ。
猿の尻より、真っ赤っかーな。
彼を見たのは、あの日が初めてだった。
ひらひら、はらはら。
早咲きの桜の花びらが、季節外れのなごり雪に混じって、舞い落ちる。
「ねー、翠! やっぱやめとくべ。開いてないじゃん」
だいたい春休みじゃんか、と結衣がアスファルトにしゃがみ込んだ。
「情けない15歳だな、おぬし。あたしは諦めんぞ!」
季節は春、真っ只中。
あたしは中学校からの親友である佐東結衣(さとう ゆい)を無理やり連れ出して、明日から通う高校の偵察を決行した。
「見ろ、結衣! あれが」
目の前にドーンと建っている、白い校舎を指差した。
「明日から、ここがうちらのアジトだ。偵察もせんでどうする!」
ガッチリと閉ざされた正門の鉄格子前に立ち、あたしは胸の前で腕を組んだ。
「アジトって……んな大袈裟な」
疲れ切ったへなちょこ声で、結衣が言った。
「偵察なんかせんでも、明日からは嫌でも通わなきゃなんないんだしさ」
県立南高等学校。
自宅からほど近く、制服も可愛いという理由で、南高を受験した。
……なんて、真っ赤っかーな大嘘だ。
猿の尻より、真っ赤っかーな。