夏の空を仰ぐ花
春の、夕暮れの、静かなグラウンド。


そこで見た知らない男の子の、あの目。


ナイター中継を観たり、野球の話をする時の父と同じ目をしていた。


生き生きしていて、優しげで。


でも、希望に満ち溢れていて。


真っ直ぐ、一点をじっと見つめていた。


あたしは、昨日のあの瞬間から、あの目が忘れられないのだ。


リビングへ行こうとドアを開けた瞬間、どんちゃん騒ぎのような騒がしさにたまらず笑った。


「茜ー! 鞄にハンカチ入れたかー?」


「いれましたわよー」


とませた口調で返したのは、あたしの自慢の妹だ。


おお。


ひとりで保育園の支度が出来るようになったのか。


感心しながら階段を下る。


若干4歳ながらおしゃまな茜は、しっかり者だ。


実に将来が有望な女だ。


ガッチャーン!


セトモノが割れたような音に、思わず「おっ」と声が漏れた。


「こらーっ!」


家中に母の怒鳴り声がビンビン響く。


「蒼太あーっ!」


茜に比べて、弟の蒼太はおっちょこちょいで落ち着きがなくて、よく食器を落として割る。


本日も朝っぱらからやらかしたらしい。


弟よ、やっちまったな。


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