夏の空を仰ぐ花
ぼんやりしながら、毎日減る一方の鎮痛剤の箱を思い出していた。


薬中みたいだな、なんて思いながら。


「ちょっといいかな」


「へい?」


前田先生が手を伸ばしてきて、あたしの下まぶたを更に下へ引っ張る。


「僕の指を追い掛けてみてくれる?」


「……? うん」


右へ左へ移動する人差し指を目で追い掛ける。


ふうん、と煮え切らない態度で、前田先生が母に告げた。


「頭痛ですか。うん……じゃあ、ちょっと、検査してみましょうか」


「お願いします」


「検査あ?」


あたしはとっさに顔を上げて、笑い飛ばした。


「いいって! 検査なんか大袈裟だし、めんどくせえよ。なんともないし」


前田先生がフフと笑って、あたしの肩を叩いた。


「一応だよ、一応」


「一応?」


「そう。毎日、市販の頭痛薬飲んでいたら、お金もばかにならないだろ」


ね、と前田先生はあたしの額をトンとと指で押して、


「CT」


デスクに向かったまま、看護師さんに指示を出した。


「一応、脳外の長谷部先生に連絡入れて。見てもらいたいから」


「はい、分かりました」


看護師さんが指示されたように、テキパキと動き出す。


< 317 / 653 >

この作品をシェア

pagetop