夏の空を仰ぐ花
「じゃあ、頭の写真を撮らせてもらうから、待合室で待っていてくれるかな。お母さんはちょっと残って下さい」


「へいへいほー」


あたしは看護師さんに指示された通りにCTを撮ってもらい、また内科の待合室に戻った。


それから30分近く待たされだんだんイライラして来たとき、母が背中をしゃんと伸ばして診察室から出てきた。


「検査の結果出た?」


あたしが聞くと、「まだ」とだけ答えて母が隣に座った。


「えー……まだかよ。長えなあ。疲れた。つうか腹減った」


熱はあれども、腹は減る。


腹に何かを入れないと、低血糖でも起こしそうになる。


イライラする。


あたしはブツブツ文句をたれてばかりで。


でも、母は口をつぐんだまま、ただ背筋を伸ばして座っていた。


まるで、心を決めて何かを待っているかのように。


その時、向こうからつかつかと白衣を着た中年の医師が、早足で待合室に入ってきた。


颯爽と歩いて来る医師は端正な顔立ちをしていて、すらりと背が高い。


2時間のサスペンスドラマに出てくるような、二枚目俳優のような雰囲気を漂わせていた。


医師が颯爽とした足取りであたしと母の前を通過し、シャッとカーテンを開けて診察室へ入って行った。


「お疲れさん」


「長谷部先生」


カーテンで仕切られている診察室から、声が漏れてくる。


前田先生の声だとすぐに分かった。


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