夏の空を仰ぐ花
「お忙しいところ呼び出してすみません」


「いや、それで、前田先生が気になるという患者の写真は? これ?」


今入って行ったあの医者、ハセベってのか。



歳くってるわりに、けっこう男前だったな。


「いやあ、あたしの補欠にゃ負けるけどなー」


二へ、とニタつくあたしを、母が呆れ顔で小突く。


「何妄想してんだ。バカ娘が」


熱でいかれちまったか、なんて母は笑った。


ヒソヒソ話す医者たちの声が、カーテンをつつ抜けてくる。


「ええ、これがCTなんですけど。ほら、ここ」


「どれ……あ、ああー」


「僕は内科専門なもので、判断できないのですが……これは」


その瞬間、母がピクリと動いてカーテンをじっと見つめた。


「そうだなあ。これは、詳しく検査してみようか」


あたしは、こう見えてもバカじゃない。


高校だって進学校だし、それなりの成績だし。


補欠ほど良かないけど。


英語だって得意な方だし。


数学は嫌いだけど。


「じゃあ、親御さんに説明して、あとは脳外にお任せするということで」


「ああ、そうしてくれるかな。あと、これは僕の方から、親御さんに説明させてもらえるかな」


「ええ、お願いします」


あたしは、そんなにバカじゃないはずだ。


だから、察してしまった。


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