夏の空を仰ぐ花
「やってくれたなーっ!」


母の怒鳴り声の直後、えーん、と甲高い泣き声が家中に響いた。


蒼太は泣き虫王子だ。


なんとも、なんとも。


母ひとり、子3匹。


吉田家の朝はとにもかくにも、騒がしい。


あたしはそーっとリビングを覗いた。


「えーい。ただでさえ、朝は忙しいというのに」


蒼太が割ったと思われるマグカップの破片を、母がてきぱきと集めていた。


「母の仕事増やしやがって。おチビめ」


と床を水浸しにしているミルクを布巾でササッと拭きながら、母はぼやく。


「おチビめ、おチビめ」


「えーん、えーん」


その横で、おんおん泣く弟。


「そうちゃん」


しっかり者の茜は保育園の制服をビシッと着こなして、泣いている蒼太をあやしていた。


「よしよし。なかないのよ。あかねのミルクのんでもいいからね」


そこに、あたしは突入した。


「モーニン! エブリワン!」


突然登場したあたしを見て、おチビふたりは目を点にした。


「どうだ! 似合うだろ」


くるりと一回転してポーズを決めると、蒼太はピタリと泣き止み、茜はキャアと黄色い声を上げて床をダンダン踏んだ。


「みどりねえちゃん、かわいいわあ! おひめさまみたいですわよ」



< 32 / 653 >

この作品をシェア

pagetop