夏の空を仰ぐ花
今、あの診察室の中で話題になっているのは、おそらくあたしなんだろう。


「それじゃあ、この患者の親御さんをカンファレンス室に」


「はい、分かりました」


シャッとカーテンを開けて、長谷部先生が出てきた。


あたしは隠し事されるのが大嫌いだ。


かえって不安になる。


それが、例えあたしのためだとしても。


白が黒か、ハッキリしてもらいたい。


「ちょっと!」


あたしは立ち上がり、長谷部先生の白衣に掴みかかった。


「え?」


立ち止まった先生は、びっくり顔であたしを見つめた。


「おい、翠」


母を無視して、あたしは先生に詰め寄った。


「今、中で話してたの、あたしのことなんだろ!」


「え……いや、君は?」


「あたし、何か病気なのか?」


困った顔をして、先生はそこに立ち尽くしていた。


あたしはバカじゃない。


だから、最近、自分の体が変だってことくらい分かっていた。


分からないフリをしていたわけでもない。


朝起きると、いつも頭が痛くて。


ふらついたり、空気を掴んでいたり。


「詳しい検査って? そんなやばいのか、あたし」


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