夏の空を仰ぐ花
ハセベと呼ばれた先生は、ただキョトンとしてうんともすんとも言わない。


ただ、真っ直ぐに、あたしを見つめていた。


「やばくないから、大丈夫だよ」


その時、カーテンを開けて前田先生が出てきた。


「まじ? じゃあ、詳しい検査って何?」


長谷部先生の白衣を離すと、前田先生はあたしに微笑んだあと、母に告げた。


「お母さん。詳しい説明がありますから、二階の脳神経外科のカンファレンス室でお待ちください」


「は……はい」


珍しく、母が言葉を詰まらせた。


その表情は固い。


だから、あたしは不安になった。


「お母さんですか」


長谷部先生が母に微笑みかける。


「脳外科の長谷部といいます」


「脳外科……あの」


「娘さんのことでご説明がありますので、一緒に来て頂けますか」


「はい」


なんだよ。


なんなのさ。


あたしのことなのに、なんで当の本人はかやの外に放り出されてんのさ。


立ち尽くすあたしに、若い看護師さんが声を掛けてきた。


「あなたは待合室で」


看護師さんを無視して、出て行こうとする母にあたしは飛び付いた。


「待て! ちょっと待て!」


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