夏の空を仰ぐ花
カーテン越しに患者がいるのに、でかい声でべらべらしゃべりやがって。


聞いてくれと言ってるようなもんじゃんか。


「はっきり言って、全部筒抜けだったんじゃ!」


どちらの医師も、あたしの金切り声にびっくりした顔をして固まった。


長谷部先生はあたしにとって、運命の医師だったのに。


あたしはそんなことも知らず、怒鳴り散らした。


「何の病気? はっきり言ってくれ!」


「このバカ娘が!」


横から、母があたしをど突いた。


「何すんじゃ! 大事な長女に! こんの……」


もっと突っかかって行ってやるつもりだったのに、あたしにはできなかった。


母が……いつも何があっても気丈な母が唇を噛んで目を潤ませながら、あたしを睨んでいたから。


「ああ、そうさ!」


母が声を震わせる。


「お前は病気かもしれん! 大変な病気かもしれん!」


「……まじ?」


「だから、今から確かめに行くんだろうが。バカ娘」


それを何だ! 、と母があたしの背中を叩いた。


「先生にそんな生意気な口きいて!」


何度も、何度も、叩いた。


「このっ……バカ娘! バカ……」


「……母?」


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