夏の空を仰ぐ花
「バカ……翠……」


あたしの背中を叩きながら、母は苦しそうに顔を歪めた。


抵抗も反撃も、できなかった。


前田先生が困った顔をして、お母さん、と優しく声をかけたけれど母はやめなかった。


バカ、バカ、と譫言のように何度も繰り返しあたしの背中を叩き続ける。


なんだか……惨めだった。


あたしのせいで母がこんなふうに取り乱しているのかと思うと、惨めで情けなくて。


「お母さん、落ち着いて」


あたしの背中を叩き続ける母の手を、長谷部先生が優しく捕まえた。


「大丈夫、大丈夫ですよ」


「先生……」


今にも泣き崩れそうな母に、長谷部先生がやわらかく微笑みかける。


「先程、前田の方からも説明があったと思いますが。もう少し詳しい説明をしたいので」


「はい」


「行きましょう」


その時だった。


「先生!」


母が、長谷部先生の白衣を引っ張った。


「娘も一緒に、いいでしょうか」


母が真っ直ぐな目で、長谷部先生を見つめる。


「うちの子、父親に似て頭が良くて。カンもするどくて。だから……」



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