夏の空を仰ぐ花
涙で言葉を詰まらせた母に、少し間を置いて、


「分かりました」


長谷部先生が頷いた。


「お母さんはそれでいいのですね?」


潔い、母らしい即答だった。


「はい」














2階、脳神経外科の一番奥にカンファレンス室はあって、通されたあたしと母は並んでパイプ椅子に座った。


お互いに、一言も交わさなかった。


間もなく大きな茶封筒を持った長谷部先生が入って来て、あたしと母の前に座った。


「待たせてしまってすみません」


カチッと、先生は横の大きな蛍光灯に明かりをつけて、無言のまま茶封筒から写真を出して貼り付けた。


「見て頂けますか」


この白い塊が、と黒い写真の白く浮いた部分を指差して、長谷部先生が続けた。


「これが、腫瘍です」


腫瘍。


腫瘍……か。


高校生のあたしにだって、それくらいは分かる。


まして、取り乱した母を見た時、あたしは心のどこかで覚悟をしていたのかもしれない。


「脳腫瘍です」


別に愕然ともしなかったし、頭が真っ白になるような衝撃をうけたわけでもなかった。


あたしは心穏やかに素直に、長谷部先生の言葉を受け入れていた。


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