夏の空を仰ぐ花
あたしは冷静だった。


たぶん、どこかで、気づいていたのかもしれない。


だから、妙に納得していた。


けど、まさか脳腫瘍だとはさすがにそこまで考えてはいなかったけど。


毎日、毎朝、鎮痛剤を飲みながら思っていた。


何か面倒な病気かも、って。


毎朝、頭痛で目を覚ます。


それは頻度が増し、今じゃふらつくことだってある。


どこかで、こりゃ普通じゃないなって思っていたから。


「翠さんの場合、脳腫瘍の中でも髄膜腫ではないかと思われます」


長谷部先生が言うには、あたしの場合、脳組織自体から発生する、原発性脳腫瘍なのだそうだ。


「脳組織の外側に発生しているので、良性の確率が高いと言えます」


「良性ですか!」


うつむき気味だった母が、勢い良く顔を上げた。


「ええ。詳しい検査をしてみなければ、まだ正確には頷けませんけれど」


おそらく、と長谷部先生は微笑んだ。


「翠さんの風邪が治ったら、詳しい検査をしてみましょう」


髄膜腫は良性なれども、脳腫瘍なことに変わりはない。


あたしの場合、今、その腫瘍の直径は約2センチほどらしい。


長谷部先生の表情が、キリリと締まる。


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