夏の空を仰ぐ花
「このまま放置していれば、いずれ確実に大きくなります。大きくなれば、それだけ手術も難しくなりますし」


リスクが高くなるらしい。


「脳を圧迫して、歩行障害や言語障害が出る方もいます」


あたしは、先生の説明を遮った。


「先生、あたし、手術しなきゃいけないのか?」


「うん。小さいうちに取ってしまった方がいいからね」


あたしは肩をすくめた。


手術となると、入院だよな。


やだな。


補欠と一緒に居られる時間が、激減してしまう。


今でさえ少なくて困ってんのに。


「絶対、手術が必要? 良性なのに?」


「できれば、そうしたいよね。まあ、精密検査して、結果をみてもう一度考えてみましょう」


もしかしたら、なんて、長谷部先生が希望の光を口にした。


「経過観察で行く方法もないことはないけど」


しかし、どうやら、それは希望の光でもなかったようだ。


あたしの頭に潜む悪魔の卵は、ちと面倒な地域に住居を設けて住み着いてしまったらしい。


髄膜腫の中でも、頭の下半分、しかも底にいるらしい。


「腫瘍のできる場所によって症状は異なりますし、手術の難易度も変わります」


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