夏の空を仰ぐ花
「悪いね。助かった」


「なんのこれしき」


あたしはともかく。


女手ひとつで、まだ幼い子供をふたりも育てる母を、あたしは心底尊敬する。


ピンポーン、とチャイムが鳴った。


迎えのバスが来たらしい。


玄関へ向かうと、


「まずはひだりあし……はい。つぎはみぎあしよ……はい」


よくできました、と蒼太に靴を履かせる茜はやっぱりしっかり者だ。


いい姉ちゃんぶりを発揮していた。


「茜、ありがとね。偉いぞー」


おかっぱ頭をぐりぐり撫でてやると、茜は嬉しそうにほっぺたを薄紅色に染めた。


「さあ、行ってこい」


玄関のドアを開けると、


「おはようございます」


とお迎え担当の先生が立っていた。


若くて、可愛らしいひとだった。


「おはようございます。茜と蒼太のこと、お願いします」


挨拶を交わすあたしたちの隙間をするりと抜けて、蒼太が飛び出した。


「わっ! 蒼太くん、危ないですよ!」


慌てて、先生が追いかけていく。


ああいう、蒼太の落ち着きのなさはたぶん、このあたしに似たに違いない。


「ん?」


ぽんぽんと腰を叩かれて見下ろすと、


「みどりねえちゃん、あのね、あのね」


茜が微笑んでいた。



< 34 / 653 >

この作品をシェア

pagetop