夏の空を仰ぐ花
涼子先輩、これは、泣いてる場合じゃないかもしれんよ。


だって、ほら。


あたしは、本間先輩に微笑んだ。


本間先輩が、右の口角を上げて照れくさそうにはにかむ。


その手には、丁寧にラッピングされた一輪の花。


桜色のリボンが蝶々結びされていた。


燃えるような真っ赤な……一輪のチューリップ。


昨日、花束を見繕ってもらう時、近所の花屋の兄ちゃんが教えてくれた。


―花には、花言葉ってのがあるんだよ


兄ちゃんは花言葉事典みたいな男だった。


―チューリップなんてどう? この真っ赤なやつ


―チューリップねえ……ありきたりだな。それ、花言葉は?


―真っ赤なチューリップはね…


その花言葉を知った時、あたしは笑ってしまった。


―つうか、兄ちゃん! あたしが花贈る相手、女の先輩だし。


―えっ! なんだ、てっきり好きな男に贈るのかと思ってたよ


―まさか。だから、チューリップはやめとく。レズじゃねえんだから





「ありがとう……翠ちゃん」


花束に顔をうずめて泣く涼子さんの肩を、そっと叩いた。


ごめんね、先輩。


夏井響也だけは、地球がひっくり返っても、朝と夜が逆転しても、譲ってやれない。


でも……



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