夏の空を仰ぐ花
「うん。じゃあ、行こっか、響也、イガ」


反対方向に花菜ちんとイガグリが歩いて行く。


「しょうがねえか。じゃあ、部活でな」


健吾も、


「行くぞ、翠」


「夏井よかイイ男居るかもしれないぜ」


結衣も明里も。


「やだー! 補欠と一緒がいいのだ!」


ダダをこねるあたしをついに見かねたのか、結衣と明里が戻って来て、


「夏井、今のうちに行け」


「翠は預かる」


あたしを無理やり補欠から引き剥がした。


「助かった。じゃあな」


あたしからするりと離れて、補欠が花菜ちんたちを追い掛けて行った。


エナメル質のスポーツバッグを輝かせながら。


右腕を結衣に、左腕を明里にがっしり掴まれて、あたしは引きずられながら叫んだ。


おお、平成のロミオ。


「ほーけーつー!」


お前はなぜ、平成のロミオなのか。


どんどん遠ざかっていく背中。


あたしは神様の小さないたずらを恨んだ。


どんなに必死に手を伸ばしても、補欠には手が届かないんじゃないかって、不安になった。


「あたしの補欠ー!」


「なんだよ、翠。うちらがいるじゃん。クラス離れたくらいでうだうだすんな」


「そうだそうだ。夏井よか、うちらの方がいいぞ」


男一瞬、友一生、そんなことを言う結衣と明里に引きずられながら、あたしは新しい教室に向かった。


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