夏の空を仰ぐ花
健吾みたいに飛び抜けてギャグセンスがあるわけではないし、物静かで、無口なのに。


不思議なことに、そこに座っているだけで、何故か人が集まってくる。


だから、補欠のまわりには、いつも誰かが居た。


「えー。じゃあ、物々交換しようぜ」


ひとつの机を、補欠、花菜ちん、イガグリで囲んで、3人は和気藹々と昼食をとっていた。


なんだよ……けっこう楽しくやってんじゃん。


あたしは寂しくて、飯もまずいってのに。


「わ、本当だ。夏井くんのお弁当美味しそう」


見て見て、とひとりの女子が言うと、次々に人が集まり出してあっという間に輪ができた。


「これ、夏井くんのお母さんが作ったの?」


「うん、そう」


「美味しそう。夏井くんのお母さんて料理上手なの?」


「さあ……どうだろ。普通、かな」


「最後の卵焼き、ゲットー!」


それを箸でつまみ、イガグリが口に放り込む。


「あっ……ったく。しょうがねえなあ、イガは」


クク、と笑いながら補欠は優しげに肩をすくめた。


ちょっとやそっとのことじゃ、補欠は怒ったりしない。


いつも穏やかで冷静で、柔らかい空気を放っている。


だから、補欠の周りには誰かが居る。


ひとりぼっちの補欠は、見た試しがない。


「補欠!」


あたしは入り口に突っ立って、補欠を呼んだ。


何度も、何度も。



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