夏の空を仰ぐ花
「ねえ! 補欠!」


でも、あたしの声は賑やかな声にかき消されて、補欠には届かなかった。


何さ。


可愛い彼女が来てんのに、気付かないとは何さ。


あたしはぽつねんと突っ立って、補欠の周りの賑やかさに打ちのめされながら、肩に掛けていた鞄をぎゅっと脇に挟んだ。


なんか……みじめだ。


あたしはガキなんだろうか。


わがまま、なんだろうか。


クラスが離れてからいじけてばかりで。


寂しくて、八つ当たりばかりして。


病気になって不安なくせに、平気なふりをして。


唇をきゅっと噛んでうつむいた時、


「あの」


声を掛けてきたのは、A組のいかにもガリ勉タイプの男子だった。


ひょろひょろとした体で、生まれてこの方日光に当たった事なんてありません、そう言っても何も不思議じゃないほどの白い肌。


「夏井くんの彼女さん、だよね」


度のきつそうな分厚いレンズの眼鏡を人差し指でくいっと持ち上げて、彼はおどおどしながら続けた。


「よ、呼ぼうか?」


なんだ、こいつは。


べんぞうさんじゃないか。


彼に罪はひとつもないのに、あたしはつっけんどんに返した。


「いい。もう行くし」


どうせ、あの輪にはまることなんてできそうもないし。


どうせ……気付いてもくれないし。


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