夏の空を仰ぐ花
健吾が突き上げた右手には、いちご牛乳の紙パック。


げ。


超似合わねえ。


つい、プッと吹き出してしまった。


「お前、今日、早退すんだって?」


「まあね」


「どうした? 風邪引いたか?」


そう言って、健吾はいちご牛乳をうまそうに吸い上げた。


あまー。


「健吾には関係ねえだろ」


じゃあな、とそっけなくすれ違おうとした時、健吾があたしの腕を引っ張った。


「おいおい、待て待て」


「何だ。何か用か。あたし、時間ねえんだけど」


振り向くと、健吾は目をパチパチさせて、ズルズルといちご牛乳をすすった。


「そりゃ、こっちのセリフなんだけど」


健吾は言い、親指でA組の教室をくいくいと指した。


「帰る前に、会いに来たんじゃねえの? 響也、居なかったのか?」


あたしは口を一文字に結んだ。


居たけど全く気付いてもらえなかったから、ふてくされて帰る、なんて言ったら健吾は笑うんだろうな。


ん? 、と健吾が首を傾げた。


「お前、今、A組に入ろうとして、入らなかっただろ」


なんだ、見られてたのか。


なぜか、無性にみじめを感じた。


その瞬間のあたしは、どんなふうに、健吾の目に映ったのだろう。


「離せ。スケベ」


あたしはぶっきらぼうに健吾の手を振り解いた。


左耳のピアスが、シャラシャラ揺れた。


「行けよ。居るから、補欠」


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