夏の空を仰ぐ花
「え……てか、お前は? 何しに来たんだよ」


「別に……」


あからさまに不機嫌な態度をのあたしの顔を、健吾が不思議そうに覗き込んで来た。


「なあ、翠」


「何だ」


「お前、今日へんだぞ」


小さく笑った健吾から、いちご牛乳の甘ったるい香りがした。


「響也とクラス離れて寂しくてたまんねえんだろ。翠も一応女の子なんだな」


「うるせえ。バカにしてんのか!」


顔近いんじゃボケ、とあたしは健吾の顔面をわし掴みして、突き飛ばした。


「バカ健吾が!」


図星だった。


「ごふっ……何すんだよ!」


クラスが離れて寂しくて。


会いに来ても、気づいてもらえなくて。


惨めだった。


新しいクラスで新しいクラスメイトに囲まれて笑う補欠を目の当たりにして、孤独になった。


深い深い溝ができていくような気がして、怖くなった。


「人の顔わし掴みする女なんて聞いた事……」


顔をさすりながら、健吾が言葉をのみ込んだ。


ギョッとした顔で、あたしを見つめて来る。


「えっ……翠? お前……」


半ば青ざめ気味の健吾の顔を見て、ようやくハッと我に返った。


ああ、あたし、重傷かもしれない。


重度の情緒不安定なのかも。









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