夏の空を仰ぐ花
なんでこんなに情緒不安定なのか、自分でもよく分からない。


だけど、ひとつだけ確かなのは、ただ不安だということだ。


脳腫瘍が発覚してから数ヶ月、あたしはとにかく必死だった。


誰にもバレないようにと、一生懸命だった。


そんなに一生懸命になったところで、表彰されて賞状を貰えるわけでも、賞金が出るわけでもないのに。


我慢が一番苦手なくせに、我を忘れたように我慢して今日まで生きてきた。


それが自ら自分の首を絞めているという事態に気付かないくらい、必死に。


月に2、3度の検査や診察の日は、歯医者だとアリバイ工作をする。


嘘を重ねることがこんなにも大変で、こんなに体力を消耗する行為だとは思っていなかった。


つらかった。


正直に生きることができなくて、苦しかった。


何よりも、補欠に後ろめたくて、情けなくてたまらなかった。


「翠?」


補欠があたしの顔を覗き込もうとした。


「今、A組に来たんだって?」


泣き顔なんか見せたくなくて、頭なんか上げられなかった。


今更、追い掛けて来んなよ。


あたし、何度も声かけたのに。


補欠は気付いてもくれなかったじゃんか。


「翠が来てた、って。健吾が教えてくれた」



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