夏の空を仰ぐ花
小箱を引き出しにしまって、あたしは部屋を飛び出した。


ズダダダ、と豪快に階段を駆け下りる。


座敷の引き戸をガーンと開けて、仏壇の前にどっかり座った。


「オーウ、今日もナイスガイ!」


位牌の中の父は、本日も爽やかに笑っている。


こざっぱりとした短髪で、優しい目をして。


「父、今日もなういぜ」


まるで少年のような笑顔の父は、今にも位牌からぽーんと飛び出して来てもおかしくないほど、実に爽やかで。


あたしは、むんずとりん棒を掴んだ。


金色のりんを棒で叩く。


カンカンカン!


カーン!


「父!」


パンッと音を鳴らして、合掌した。


「Haw are you?」


位牌にニッと微笑みかけた瞬間、背後から一撃をくらった。


「あだっ」


ペシッといい音がその証拠だ。


吉田 翠。


15歳。


ダメージ、0.1。


「痛ってえーい! ギャフン!」


振り向くと、


「なーにがギャフンだ」


母が立っていた。


「4つも鳴らすな! びっくりして、父が生き返っちまうわい」


ハア、と息を吐き出した母は美しさを倍増させていた。



< 37 / 653 >

この作品をシェア

pagetop