夏の空を仰ぐ花
分かる?


補欠に、分かる?


気付いてもらえない時の孤独感、寂しさ。


あたし、透明人間になっちゃったんじゃないかって思ったんだ。


こんなに近くで何度も呼んでいるのに、まったく気づいてもらえなくて。


補欠に、この声が届かなくて。


だから、思った。


あたし、本当は生きてないんじゃないかって。


不安になるんだ。


補欠が居れば怖いものなんて無いと思ってた。


けど、違った。


病気を患う事がこんなに怖くて、これほどまでに不安と二人三脚しなきゃいけないなんて、分からなかったから。


「気付いてくれなかったのは、補欠じゃんか!」


あたしの金切り声が、昼休みの廊下に響く。


通りすがりの生徒がチラチラ見ながら、通って行った。


ボロボロ涙をこぼしながら、補欠を睨んだ。


きっと。


泣くなよ、そう言って、抱きしめてもらえると思っていた。


ただ、抱きしめてほしかった。


補欠のことだから、あたしを抱きしめて、不安の洞窟から連れ出してくれるんじゃないかと思った。


「翠さ、いつまでそうやっていじけてんの」



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