夏の空を仰ぐ花
「……え?」


「もう、そろそろ諦めろよ」


けれど、補欠があたしを抱きしめてくれることはなかった。


足がすくんだ。


「クラス、離れちまったもんはしょうがないだろ」


はあ、と重い溜息を吐いて、補欠は疲れた表情を浮かべて下足棚にもたれかかった。


「そうやって、いつまでもいじけてろよ。いじけたって同じクラスになれるわけじゃないんだぞ」


まるで、少しは大人になれよ、そう言われているような気がしてくる。


別に、本気で補欠を困らせたかったわけじゃない。


こんなに困った顔の補欠を見たのは初めてで、戸惑った。


どうすればいいのか、分からなかった。


「クラス違っても、毎日会えるだろ。なのに、なんでそんなにこだわって執着してんのか」


おれには分かんねえよ、そう言って、補欠があたしから目を反らした。


痛い……。


心臓に鋭い矢が突き刺さった。


何本も。


痛くて、苦しくて、言葉が出て来ない。


確実に、何かができはじめていた。


あたしと補欠の空間に目には見えない、深い溝ができていた。


付き合って半年の間に、補欠は確実に大人になって。


あたしは子供に返り咲いていた。






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