夏の空を仰ぐ花
補欠がどんどん遠ざかって行くような気がした。


あたしをここに置き去りにして、どこかへ行ってしまうようなきがする。


怖くて、怖くて、涙がとまらなかった。


まさか、優しさの塊のような補欠の口から、そんな一言が飛び出すなんて。


「なんか、疲れる」


ぬくもりの氷山のような補欠の口から、冷たい流氷のような言葉が飛び出すなんて。


信じられなかった。


受け入れることなんてできなかった。


そうか……そうだったのか。


あたしの存在は、補欠を疲れさせるのか。


「……ごめん」


ぽとっ、とひと粒の涙が足元に落ちて、細かく砕け散った。


こっぱみじんに。


あたしの、心みたいに。


粉々に、砕け散った。


ごめんね、補欠。


疲れさせて、ごめんね。


確かに疲れると思う。


あたしの御守りをするのは疲れるだろう。


これから南高野球部を引っ張って行く世代にいる補欠は、部活も勉強もあるのに。


あたしはお荷物なんだろう。


なにせ、あたしもお荷物を抱えている身なのだ。


脳腫瘍という、爆弾を。
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