夏の空を仰ぐ花
「泣いた顔してるね。何かあった?」


「まあ……ありまくり」


苦笑いを返すと、つられたように苦笑いした。


「あたし、けっこう神経ず太くてさ。何事にもへこたれない女なんだけどさ。最近、情緒不安定」


「へこたれたんだ?」


「そ。真ん中から、バキッっとね」


今日だってそうだ。


罪のない補欠に、あんな態度をとってしまった。


「最近のあたし、最低。なんつうか、超弱っちいのなんのって」


肩をすくめると、長谷部先生はデスクの引き出しから何かを取り出して、


「そんな君に。はい、どうぞ」


と、あたしの手のひらに握らせた。


「なに?」


ゆっくり指を開くと、正方形のそれが手のひらでコロコロぶつかりあった。


「あ、キャラメル!」


「そう。一休み、一休み」


長谷部先生が、あたしの肩をぽんと叩いた。


「頑張りすぎると、ガス欠になっちゃうからね。一息入れながら、一緒に頑張ろう」


「……あんがと」


主治医が長谷部先生で良かったと思った。


不幸中の幸いとは、こういう事をいうのだろう。


病気になったのは大誤算だけど、あたしはもしかしたら運がいいのかもしれない。


こんなに良い医師に巡り逢えたのだから。


「あんがと。先生」


長谷部先生の優しさに、つい、気が緩んでしまった。
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