夏の空を仰ぐ花
だから、長谷部蓮という人間がどんな性格なのか分からない。


もし、口が軽かったら、明日にはもう、あたしはクラスメイトたちの談笑のおかずになるのだろう。


それで、すぐに結衣と明里の耳にも、健吾の耳にも入って、いずれ、補欠が知ってしまうだろう。


そんなことになったら、どうすりゃいいのか。


さっきだってあんな別れ方をして、気まずいっていうのに。


補欠がこのことを知ったら、どうなるんだ。


あたしたち。


……もう、終わりかもしれない。


病気の彼女なんか、手に負えねえや。


そう思われるかもしれない。


補欠が、離れてしまうかもしれない。


「ちょくちょく早退する子だなって思ってたんだ。まさか、ここに来てたなんて」


まずい。


これ以上深く関わらないように、とあたしは素早く椅子を立った。


「先生、コーヒーあんがと!」


デスクにカップを置いて、


「じゃあ、また来る」


それだけ言って、


「どけ」


蓮を肩で突き飛ばして、一目散に診察室を飛び出した。


大誤算だ。


隣の席のやつの名字くらい把握しとくべきだった。


そもそも、蓮の第一印象の悪さが、こんな事態を招いたのだ。


悪すぎたがために、関わろうとしなかったから。








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