夏の空を仰ぐ花
とにかく、とにかく一刻も早く病院を出ようと、会計を済ませて出た時、


「吉田翠ちゃん」


蓮が追いかけて来た。


うざいやつだ。


あたしは無視して、すたすた歩き続けた。


「ちょっと待ってよ。ねえ」


完璧に無視しているのに、それでも懲りる事なく蓮がついて来る。


まるで、金魚のフンのように。


うざい男だ。


ついて来んなよ!


立ち止まり、ギロリと睨みながら振り向くと、蓮も「うっ」と声を漏らして立ち止まった。


「来んな!」


吐き捨てて、あたしはさっきの倍、早足で先を急いだ。


これは、女のカンだ。


こいつと関わっても、きっと、ロクなことがない。


「あ、待ってよ」


性懲りもなく、蓮がついて来る。


あたしが歩く速度を上げれば、同じ速さで。


速度を落とせば、歩調を合わせて。


わざとなのか、おちょくってんのか。


ただ無言で、蓮はあたしの後ろをついて来た。


病院前の横断歩道で、あたしは立ち止まった。


こんな時に限って、こんなことになる。


信号が点滅して、青から赤に変わる。







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