夏の空を仰ぐ花
「はあ」


今、青から赤に変わったばかりの信号を睨んだ。


早く、青になれ。


「翠ちゃんの家って、こっちの方向なんだ?」


隣に、蓮が並んだ。


無視、無視。


つんとして信号を睨むあたしに、蓮が話しかけて来る。


「偶然。おれの家も、こっちなんだ」


あっそ。


心の中で呟いた。


目の前を、車が通過して行く。


「えっ、どこ行くの? 信号、青になるよ」


あたしは回れ右して、家と正反対の方向に向かって歩きだした。


「翠ちゃん」


いちいち、うるさいやつだ。


子蠅みたいな男だ。


とにかく蓮をまきたくて、あたしはすたすたと先を急いだ。


それでも、蓮の足音がついて来る。


イライラした。


けれど、あたしは立ち止まることなく、歩き続けた。


すると、蓮も、どこまでもついて来た。


遠くから聞き馴れたチャイムが聞こえて来る。


どうやら、南高近くまで戻って来てしまったらしい。


同じ制服の生徒たちが下校して行く中、あたしはさの流れに逆らってずんずん進んだ。


振り返って見ると、やっぱりすぐ後ろを蓮がついて来ていた。


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