夏の空を仰ぐ花
公園前を賑やかに下校して行く、南高生。


遠くから小さくなって聞こえて来る、運動部の掛け声。


あたしは木漏れ日を受けながら、溜息をついた。


しばらく沈黙が続いて、突然、蓮がクスクス笑い出した。


「なに笑ってんだよ! キモ」


蓮がベンチにもたれて、あたしの髪の毛を見つめていた。


「やっぱり目立つよね。その髪の毛」


「うるせえなあ。あたしの勝手だろ。つうか、こっち見んなよ」


春の西風に、木の葉がさわさわと揺れる。


突然、蓮が「あっ」と声を出した。


「夏井くんだ!」


「えっ!」


まずい。


あたしはとっさに身をねじって、ベンチに隠れた。


補欠に見つかりたくないと思った。


「……と思ったら、違った」


嘘だよ、と蓮が可笑しそうに吹き出した。


「なに隠れてんの。夏井くん、今頃、部活だろ。野球部は今年選抜に行けなかったぶん、夏にかけてるからね」


来るわけないだろ、と蓮はゲラゲラと笑った。


ムッとした。


「笑うな!」


ベンチに座り直してムッとしていると、不意を突かれた。


「そうやってとっさに隠れなきゃならないくらい、夏井くんにバレたくないような病気を、抱えてるの?」



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