夏の空を仰ぐ花
ギクッとした。


じっとり、不快な汗を両手に握っていた。


「……は?」


蓮の目に柔らかさはなく、怖いくらい真面目だった。


「その様子だと、やっぱり言ってないんだね。隠してるんだ、夏井くんに」


どうして? 、と聞いて来た蓮を、あたしは睨み付けた。


「別に隠してるわけじゃないし。ただ、言ってないだけだから」


本当に、それだけのことだ。


別に隠してるわけじゃない。


蓮がフフと鼻で笑った。


「何言ってるの。それを隠してるって言うんだよ」


うるせえなあ、と突っぱねるあたしに、蓮は低い声で囁くように言った。


「ごめんね。さっき、見えちゃったんだ。翠ちゃんのカルテ」


「……なっ」


言葉が出てこなかった。


足のつま先から一気にカアッと熱くなった。


そして、蓮の口からその病名が出た瞬間に、頭のてっぺんから、一気に熱が引いて行った。


「脳腫瘍。髄膜腫、だね」


もう、抵抗する気すら起きなかった。


本当のことだ。


今更、必死に否定しても、蓮には通用しないと分かった。


じっと見つめて来る蓮に、あたしはこくりと頷いた。


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