夏の空を仰ぐ花
風が、枝葉を強く揺らした。


まるで、あたしの乱れた心のように、強く。


日が暮れ始めていた。


長い沈黙を破ったのは、蓮だった。


「なんで言わないんだよ、病気のこと。夏井くんに」


補欠の顔が、脳裏をよぎった。


優しい目をして、あたしに微笑む、補欠の顔が。


「言う必要ないからに決まってんじゃん」


余計な心配をかけて、補欠の心を掻き乱すマネだけはごめんだ。


それだけは絶対に嫌だ。


「言えばいいのに。打ちあけたらきっと、楽になるよ」


そうだろうか。


蓮の言う通り打ち明けたら、楽になるものなんだろうか。


どうしても、そうは思えなかった。


公園が薄暗くなり始めていた。


もうじき、日が沈む。


無言を貫き通していると、蓮が言った。


「夏井くんなら、大丈夫だと思うけどなあ」


「大丈夫? どういう意味だ」


顔を上げると、蓮がやわらかく微笑んでいた。


例えば、と前置きして蓮が語り始めた。


「おれみたいに、彼女の辛さを受け止められない、ダメな男と」


と自分の胸を指差し、


「夏井くんみたいに、彼女の辛さを受け止められる、包容力のある男」


そして、南高の方を指差した。


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