夏の空を仰ぐ花
「ふた通りに分かれると思うんだ。男ってさ」


あたしはただ黙って、蓮の声に耳を傾けた。


「夏井くんと話したことなんて一度も無いけどね。見てたら、こいつ、いい目してるなって思ったんだ」


蓮の栗色の髪の毛の端が、最後の夕陽に透けて琥珀色に輝いて見えた。


「特に、翠ちゃんを見る時の彼の目。なんとも言えないんだよね」


あたしを見る時の、目?


いつも見ているはずなのに、なぜか思い出せなくなった。


というより、正直、分からなかった。


第三者から見る、あたしを見る補欠の目って、どんなだろう。


ぽかんとしていると、蓮があたしを指差してクスクス笑った。


「ぼくはこの子が好きで好きでたまりません」


ドキッとした。


「ああ、好きで好きでたまらない。そんな目を、夏井くんはするんだ」


言ったのは補欠じゃないのに、こんなイヤミーな男なのに。


ドキドキした。


もし、このイヤミー蓮が言ったことが本当なら、どんなに幸せなんだろう。


嬉しくて嬉しくて、ほんの少し、泣けた。


「そうなのか? 補欠、そんな目してんのか?」


聞くと、蓮はうんうんと頷いて笑った。


「妬けちゃうくらいね。そんな目をしてるよ」


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