夏の空を仰ぐ花
「分かったよ。じゃあ、今から行くから」


そう言って、電話を切るなり蓮は大きな溜息を落とした。


「ね。こんな感じの恋人も世の中にはいるわけだ。探り合って、疲れる」


彼女とうまくいってないんだろうか。


「けど、お前は彼女のこと好きなんだろ? だから、今から会いに行くんだろ?」


聞くと、蓮は小さく苦笑いした。


「最近は、よく分からないんだ」


でも、と蓮が続けた。


「いざ別れるって言われたら、無理だろうな。ということは、好きなんだろうね」


「なんじゃそりゃ」


「なんだろうね。一体、何なんだろう」


あたしは笑ってしまった。


「いいから早く行けよ。あたしと浮気してる場合じゃねえだろ」


シッシッと手の甲で追い払うと、蓮がベンチを立った。


「ね、翠ちゃん。知ってる?」


「あ?」


あたしは首を傾げた。


「何だ?」


「けっこう、居るんだよ」


夏井くんと翠ちゃんのカップルに憧れてる人。


けっこう居るんだ。


ふたりに憧れてるやつら、密かにいるんだ。


「おれも、その集団の一味だよ」


とにっこり微笑んで、


「夏井くんには打ち明けろよ。夏井くん、心配してたみたいだからさ」


蓮が教えてくれた。


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