夏の空を仰ぐ花
「翠ちゃんが早退したあと、夏井くん、うちのクラスに来たんだよ」


「え……補欠が?」


たぶん、あたしと下足棚の前でもめた後だ。


うん、と蓮が頷いた。


「携帯握り締めてさ。佐東さんと三船さんの所に来てたよ」


「結衣と明里に?」


「うん。すごく必死だったよ」





―翠、なんで早退したのか分かんねえ?


―なんか、いつもと様子が違ってて。変でさ


―何回も電話してんのに出ねえんだよ


―お前らも掛けてみてくれねえかな


「って。予鈴が鳴ってもずっと粘っててさ」


―おれ、翠のこと傷付けたかもしれねえや


「泣かせちまった、って。ひどい顔して、A組に戻って行ったんだ」


携帯見てみたら? 、と立ち去ろうとした蓮を、あたしはとっさに引き止めていた。


「ちょっと待て!」


蓮の腕に掴みかかる。


「えっ……何?」


振り向いた蓮はびっくり顔をしていた。


「頼む!」


泣けるのなら、大声を出して泣きたい。


今、目の前に居るのはイヤミー蓮で、補欠じゃないのに。


蓮の向こうに、補欠を見ていた。


必死になって結衣と明里に相談を持ちかける補欠の姿を。


あんなふうにこじれたのはあたしが原因で、補欠は何も悪くないのに。


< 393 / 653 >

この作品をシェア

pagetop