夏の空を仰ぐ花
あたしが勝手に泣いただけなのに。


きっと、補欠は今もボールを追いかけながら、自分を責めているのかもしれない。


そう思うと、泣きたくなった。


あたしは、どれだけ補欠を苦しめれば気が済むんだろう。


「絶対、言わないで。響也に」


あたしは睨むように蓮を見つめた。


「健吾に。結衣にも明里にも」


蓮が、ふうーと長い息を吐いた。


「君の病気は風邪じゃないんだよ。脳腫瘍だろ。いつかはバレるんだから、夏井くんには言えよ」


「言えるわけないじゃん!」


お前に、何が分かるってんだ。


言えるものなら、もうとっくの昔に言ってる。


「言ったらぶっ殺すからね! 言うなよ、絶対。頼む!」


「なんで……そこまでして隠す必要があるんだよ」


あたしは涙をこらえて、蓮に言った。


どうしても、補欠には言えない理由があたしにはあった。


「響也は、次期エースなんだから!」


春が去って、夏が終わって、秋が深まる頃。


補欠は、南高野球部を背負う、エースになるんだから。


「あたしが邪魔してらんないの!」


健吾が知ったら、真っ先に補欠に言ってしまうだろう。


健吾はあたしの天敵で、だけど、一番の良き理解者で。



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