夏の空を仰ぐ花
「何だよ、あのイヤミー。長谷部、蓮、か」


けっこういいやつじゃんか。


うざったいイヤミーだとは思っていたけど。


「いいやつじゃんか」


もうすっかり日没し、あたりはとっぷりと暗くなり始めていた。


群青色の空に、春の月がぼんやりと滲んでいる。


ポツリポツリと輝き出した星を見つめて、ハッと我に返った。


しまった。


今、何時だ。


「やっべー。携帯、マナーにしてんだ」


あたしは慌てて鞄から携帯電話を引っ張り出した。


「ぎえっ」


時刻を確認してこれはまずい、と不意に焦りが口を飛び出した。


19時12分。


あたしのバカもん。


未確認の受信メールや着信履歴、履歴のお知らせランプがピカピカ光る。


その確認は後にして、あたしは急いで母にコールした。


心配してないはず、絶対にない。


2コール目の途中で、母の怒鳴り声があたしの耳をつんざいた。


「こんのフリョー娘がーっ! どこほっつき歩いてんだい!」


おお……お。


強烈じゃ。


耳がキーンとしてクラクラした。


「聞いてんのかー! こら、翠」


「すまん」


あたしは携帯電話を耳から数センチ離して、謝った。


「どこに居る! 今まで何やってた!」


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