夏の空を仰ぐ花
なんて時代なのかと思う。


こんな手のひらサイズの機械から母の怒鳴り声が漏れ出して、公園に小さく響いた。


「南高近くの公園。友達と話し込んでしまったのだ。すまん」


「なにー。ふむ……」


ようやく、母が落ち着きを取り戻したようだった。


「で、病院には行ったのか?」



「行った。変化なし」


ほんの少しの沈黙のあと、


「そうか。とにかく帰って来い」


と今度は弱々しい声で母が話し始める。


「迎えに行こうか?」


その声を聞いて、無性に申し訳なくなった。


母の声は安堵と心配がまぜこぜになった、不安定でアンバランスなものだった。


後悔した。


あたしは相当、母を心配させてしまったのだ。


「いや、いい。歩いて帰る」


「大丈夫か?」


「大丈夫さ。すぐだし」


「そうか。じゃあ、待ってるからな」


「おう。じゃあな」


電話を切ろうとした寸前に、母が早口で言った。


「待ってるからな。茜と蒼太と一緒にな。待ってるからな」


胸がいっぱいだ。


「うん」


返事をして、あたしは急いで電話を切った。


待ってるからな。


茜と蒼太と一緒にな、待ってるからな。


母の言葉は、気を付けて帰って来いよ、と言われるより、何億倍も嬉しいものだった。


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