夏の空を仰ぐ花
「まっ。許させてみせるけどなーっ!」


ヘヘン、なんて能天気に笑って、鞄に携帯電話を放り込む。


「よし。さくっと帰るべ」


鞄を肩に掛けて、ベンチを立った時だった。


公園の向こうの通りからゲラゲラ笑う声や、ギャアギャア叫ぶ声が聞こえてきた。


運動部だな。


春の地区大会が近いもんな。


何部が分からんが、遅くまでご苦労さんなこったな。


公園の向こうの通り、公園の前の道を数台の自転車が通過して行く。


街灯下のベンチの横に突っ立って、その光景を見てドキッとした。


もう暗くて、誰が誰で、何年生で、何人なのかすら把握できない。


けれど、今通過して行ったのは、間違いなく野球部の集団だった。


おそらく、10人はいたんじゃないかと思う。


黒いエナメル質のスポーツバッグが、微かに輝きを放っていた。


野球部だった。


遠ざかって行く、楽しげな笑い声。


つい、つられて小さく吹き出した。


「練習、足りねえんじゃねえのか?」


こんなに暗くなるまで練習してるくせに、公園の中にまで疲れを知らない笑い声が響いて来る。


「もっと練習しろよ。魂抜かれるくらい」


プハッと吹き出して歩き出した時、その急ブレーキの甲高い音があたり一面に響いた。


キィーッ!



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