夏の空を仰ぐ花
アスファルトにべったりと座り込み、新品の携帯電話をいじり始めた結衣に駆け寄り、


「シャキッとせんか! 少女よ、大志を抱け!」


あたしは、その華奢な猫背を思いっ切り叩いた。


「痛ってー! それを言うなら“少年よ大志を抱け”だろ」


ぷんすか怒りながらも、結衣はガンとして腰を上げようとしない。


「翠って、頭が良いんだか悪いんだか……」


せっかくのチュニックワンピが結衣の尻に敷かれて、なんとも傷ましい。


「うむ。そうとも言うな!」


南高を受験した真の理由は、大好きなあたしの両親の母校だから。


陸上部一の美女とうたわれたらしい、母。


そんな母にベタ惚れだったらしい、野球部エース、父。


ふたりが出逢い、恋に落ちたこの場所で青春てやつを謳歌してやろうと思ったからだ。


「門が閉まってんのに、どうやって偵察するってんだよ」


帰ろうよ、とだるさ全開の結衣に、あたしは微笑んだ。


「なあに、見てな。こんなの、あたしが開けてやるわい!」


そう言って、


「ハアーッ……カーメーハーメー……ハアーッ!」


とその有名なポーズをとった。


もちろん、鉄格子が開くはずもなく。


「おいおいおい!」


結衣が呆れたと言わんばかりに、でっかいため息をこぼした。


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