夏の空を仰ぐ花
「へえ。それ、誰から聞いたんだよ」


そんなの知るか。


今思いついた事をテキトーに言っただけだ。


知るか。


口を一文字に結んで泣くあたしに、補欠はまるで囁くように言った。


「じゃあ、運命かもな。おれたち」


「へ?」


「だって。こんな暗い中でも、おれは見つけたからな。翠のこと、見つけた」


運命だと思った。


突っ立って泣くあたしに、補欠は呆れたように言った。


「泣くなよ。いつも強気で生意気なくせに。そんな顔してんじゃねえよ」


やっぱり、運命としか言いようがない。


そう思った。



「おれ、野球しか能がなくて、どうしようもない男だけど」


夜風が、あたしの髪の毛をなびかせた。


「だけど、野球の事ばっか考えてるわけじゃねえよ。でも、いつも考えてばっかだ。翠のこと」


あたしは、一度も瞬きをしなかった。


例え一瞬だとしても、目を閉じて開いたら、補欠の姿がなくなってしまうんじゃないかと心配になった。


これは夢で幻で。


「今日だってそうだ。お前の事ばっか考えて。心配で」


今、目の前に居る人間は、あたしが造り出したCGなんじゃないだろうか。


あまりの会いたさに、造り出してしまったんじゃないか、って。


「ストライク、全然きまんなくて」


さわさわ、ざわざわ、枝葉が夜風で擦れ合う音がやけに鮮明に響いていた。

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