夏の空を仰ぐ花
通りの向こうを、一台の車が通過して行った。
「翠のこと考えてたんだ。部活の間、ずっと」
バカみたいだろ、アホだよな、そう言って、補欠は肩をすくめた。
「けど、ラストの一球にかけてみたんだ」
補欠が、丸めていた背中をしゃんと伸ばした。
何を? 、そう聞きたかったのに、声が出なかった。
嘘じゃないし、わざとでもない。
涙を止めようとしているのに、どうしても、どうあがいてみても止まらなかった。
一球にかけてみたんだ、もう一度繰り返した補欠は優しい目をしていた。
「おれたちの、未来」
「……は……っ」
あたしはとっさに口元を両手でふさいだ。
涙があふれる。
ふふ、と補欠がくすぐったそうに笑いをもらす。
「そしたらな、どんぴしゃ。ど真ん中。完璧なストライク」
もともと細い補欠の目が、半分になった。
月明りが、黒いスポーツバッグに反射していた。
「翠の真似じゃないけど。運命だと……思ったよ。おれたちが出逢ったのは、運命だって」
あんなにことごとく決まらなかったにのに。
ストライクが決まった瞬間に、と補欠は言った。
「運命だと、思ったんだ」
今頃、なに抜けた事言ってんだい、補欠。
「はあ……? 遅えよ。気付くの、遅すぎだし」
今更、気づいたのかよ。
あたしは、もう、とっくの昔に気づいてたのに。