夏の空を仰ぐ花
おれは、野球を投げ出す事だけはできない。


だから、もっと不安にさせるかもしれない。


これからも、泣かせてしまうんだと思う。


悪いな、と。


「けどな、不安にさせる分だけ、泣かせた倍、幸せにする。時間がかかっても。それは約束する」


あたしの手を握る補欠の手に、力がこもる。


「言ったな。嘘ついたら……ぶっとばす」


「ああ」


あたしは、涙と一緒に夜の空気も飲み込んだ。


「だから、これだけは分かって。信じて」


補欠は、いつも、優しい瞳をしてるんだね。



「信じてな」


そうやって、優しい瞳であたしを見てくれるんだね。


信じるよ。


だけど、涙が止まらん。


「翠は、おれの、一番なんだ」


涙が、止まらなかった。


「無理しなくていいし。疲れたら、あたしに疲れたら……いっそ突き離してくれてかまわん」


バカか、補欠の優しくて低い声が降って来た。


「誰が離すか。離してたまるか。翠は、おれの一番だ」


嬉しかった。


そんなの、補欠がとっさに考えたお世辞かもしれないのに。



そうだとしても、例えそうであったとしても、嬉しくてたまらなかった。


もう、十分だとさえ思った。

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