夏の空を仰ぐ花

秘密の涙

ひぐらし鳴く頃、南高野球部は、夏の甲子園地方大会で、一回戦敗退に終わった。


本間先輩がマウンドに泣き崩れるのを、あたしは茫然とアルプススタンドで見つめていた。


季節が移ろいゆくように、世代も交代する。


八月も下旬に差し掛かる。


それは、二年の夏休みが幕を下ろす数日前の良く晴れた暑い午後で。


夏が大好きで、暑さなんてはのかっぱなあたしも、その現実にはさすがに打ちのめされた。


こてんぱんに。


ハンマーでぺっちゃんこにプレスされたような気分だった。


一か月ぶりの精密検査。


頭部の断面写真を見た長谷部先生が、重い口を開いた。


「手術、考えなきゃいけないな。腫瘍が大きくなり始めたね」


「……え」


あたしは、膝の上で手に不快な汗を握った。


「今週中に、もう一度、お母さんと一緒に来てくれないかな」


声には出さず、あたしは素直にこくりとうなずいていた。


何が現実で、何が夢なのか、区別がつかなくなりそうだった。


でも、何もかもが全て現実だった。


長谷部先生の声が、鼓膜のひだにこびりついてはがれない。


「来月頭にでも、手術をしよう」


そう告げられたのは、部活が終わったあとの補欠と会う約束をしている16時の、一時間前の事だった。














「暑っちー」


南高近くの公園にのベンチに座って携帯電話を握りしめたま、あたしはぼんやりと空を眺めていた。


青い空を、純白の雲がのんびり流れて行く。









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