夏の空を仰ぐ花
「毎年、必ず、誰かが言うよね。今年の残暑は厳しいってさ」


ジイジイ、ジイジイ、壊れた電線みたいな音。


晩夏の蝉時雨が、雨音のように響く。


「まじ暑いな。明日もこんな暑いのかよ」


と窓辺により掛かりながら、下敷きで顔をバッタバッタ扇ぐ彼女は、あたしのもうひとりの親友だ。


三船 明里(みふね あかり)。


明里とは、入学式の日に出逢った。


ハイパーストレートロングの黒髪。


すらりとしたモデル体系。


言葉使いの悪さに似合わない、その清楚な顔立ちの明里との出逢い方は、なんとも奇抜だった。


「明日も暑いらしいよ」


とマスカラを重ねる手をひと休みさせて、結衣が肩を落とした。


「てか、しばらく暑っちいってさ。めざましの姉ちゃんが言ってた」


小柄で赤毛のショートヘアーがトレードマークの、結衣。


「まあじいー? 明日、学校さぼっかなあー」


魔法使いのようなサラサラロングヘアーの、明里。


結衣と明里と、あたし。


奇数の友情はうまくいかない。


よく聞くけど、そんなの迷信だ。


うちらは3人揃って初めて「親友」という言葉が成立する。


入学式の日から、そういうことになった。



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